都庁前駅の「謎」を真剣に探る

都営地下鉄大江戸線」は、都心部を走る環状線部分と都心部から郊外に向う放射状部分を合体させたハイブリッドタイプの路線だと言われています。つまり都庁前駅を出た電車は都心部の地下を山手線のようにグルリと一周してまた都庁前駅に帰ってきたあと、今度は郊外の光が丘を目指してまっしぐらに進んで行く、というわけです。
不肖私は、へぇ、そうなのかぁ…と何も考えずにその説明を鵜呑みにして分かったつもりになっていたのですが、ある日、東新宿駅から六本木駅へ抜けようとして、気が狂いそうになりました…

都庁前駅での「超異常体験」
東新宿を出た電車が都庁前駅に着きました。
車内アナウンスが「この電車はここで終点だから乗り換えろ」と言います。
「えっ、このまま六本木まで直通じゃないのかよ?」と意外に思ったものの、どうせ環状線です、降りたホームの向かいの線に六本木方面の電車が待ってるか、少なくとも入線してくるのだろうとたかをくくっていました。
ところが実際降りてみると向かいの4番線は光が丘方面の電車で、都心から郊外へ向う線です。
自分が今降りた3番線は都庁前終点の降車専用。
これでは階段を上り下りして別なホームへ行くしかないようです。何でこんな不便な造りにしたのかな?と不思議に思いながら、階段を上り下りしてもう一つのホームへ行ってみると、予想通り1番線は六本木方面、その反対側の2番線は飯田橋方面(つまり東新宿方面)です。
そこまでは良かったのですが、次の瞬間、異様な光景が目に飛び込んできました。
1番線の電車と2番線の電車が同じ方向へ走り出したのです。
言っておきますが、六本木と飯田橋は都庁前を挟んで反対方面に位置しています。どうして反対方面へ向うはずの電車が同じ方向に向って走り出すのでしょう?
うゎ、この駅、変!


都庁前駅の「不審点」まとめ
以下の三点に要約できるでしょう。

  1. 環状線であるはずなのに何故都庁前駅で乗り換えなくてはならないのか?
  2. 何故同じホームに(つまり同じホームを挟んだ向かいの線に)乗継ぎの電車が入るように設計されていないのか?
  3. 反対方面に向うはずの電車が何故同一方向へ走るのか?

環状線であるはずなのに何故都庁前駅で乗り換えなくてはならないのか?
これはちょっと考えてすぐに分かりました。
まず、大江戸線の一番簡単な路線図を描いてみる。
だいたい6の時を仰向けに寝かせたような形をしています。
(図1)

図1(大江戸線)

でも、実際の大江戸線は複線ですし、都庁前駅と光が丘で折返し運転をしています。それを考慮して図を書き直す(二重線にした上で折返し点を描き加える)とこうなります。(図1.5)

図1.5(大江戸線)

どうして都庁前駅で乗換が必要になるのか、この図を睨めば一目瞭然。途中駅としての都庁前駅と折返し駅としての都庁前駅は線路がつながっていないので乗換えないわけにはいきません。
これで一件落着。




▼反対方面に向うはずの電車が何故同一方向へ走るのか?
でも、まだ二つの謎が残されています。
その内の一つ、「反対方面に向うはずの電車が何故同一方向へ走るのか?」に関しては、この図を更にリアルにして解決できましたので、以下、その説明。
まず、地図を広げて実際の線路がどのように走っているのかを確認したら、図1並びに図1.5は正確とは言えないことが分かりました。つまり、仰向けに寝かせた6の字の終点部分を次のように修正しなくてはなりません。(図4)

図4(大江戸線)

つまり都庁前駅付近では四本の線路が積み重なって並行して走る形になっているのです。
この図を更にリアルなものとするために都庁前駅の二つのプラットホームを描き入れてみます。(図5)

図5(大江戸線)

これでより現実に忠実と思われるよりリアルな図形が完成しました。 そこで都庁前駅を改めてじっと見てみると…(図をクリックすると拡大図が表示されます)…何か変じゃありませんか?
そう、現実の都庁前駅と一致しているのは4番線だけで、1・2・3番線の並び方が違うのです。

  図5  実際の都庁前駅
1番線  飯田橋方面行  六本木方面行
2番線  飯田橋方面からの降車専用ホーム  飯田橋方面行
3番線  六本木方面行  飯田橋方面からの降車専用ホーム
4番線  光が丘方面行  光が丘方面行

一体線路をどんなふうに結びつけたら現実の都庁前駅と同じようになるのでしょう?
いずれにせよ現実の線路の配置はこの単純な図よりも複雑なようです。その様子を頭の中で絵として思い浮かべようとしても…ううん、無理でした。これがパッとひらめいた人はものすごく空間把握能力が高い人ですよね、きっと。


不肖私の場合はここで紙と鉛筆の出番。
線を引いては消し、消しては引きを繰り返して辿り着いた結論がこれ。(図6)

図6(大江戸線)

これなら線路の並び方が実際の都庁前駅と一致します。ああ、すっきりした。これで都庁前駅が安心して使える。





▼何故同じホームに(つまり同じホームを挟んだ向かいの線に)乗継ぎの電車が入るように設計されていないのか?
でも、皆さん、まだ謎が一つ残されていますね。そう、何でわざわざ図6のような形に線路を組んだのでしょう。今のままでは、環状線として利用する場合、必ず都庁前駅で乗換えなければならないし(それだけならまだいいが)乗換えに際してはわざわざ階段を上り下りして別なホームまで移動しなければならないのです。
例えばですよ、下の図のようにホームを並べてやれば、環状線として使う場合の利便性がずっと高まるじゃありませんか?(図7)

図7(大江戸線)

これなら、例えば飯田橋方面から六本木方面に向う場合、乗換えそのものは避けられませんが、同じホームの向かい側の線に移動するだけで乗換は済みます。反対に六本木方面から飯田橋方面に向う際も同じホームの反対側の線に移動するだけ。
これの方がずっと楽じゃありませんか?
何でわざわざ図6のような不便な構造にしたのでしょう?




大江戸線の正体見たり通勤線!
で、再び図6をじっと睨んでいると、ふと思い当たりました。
大江戸線都心部環状線として利用するものだと決めつけているから分からなくなる。
大江戸線は、都心部環状線として「も」使えるだけであって、その本当の正体は、郊外と都心部を結ぶ通勤線なのです!
図5を使って通勤者の身になってシミュレーションしてみましょう。例えば光が丘から六本木に通っている場合。都庁前駅では1番線着。で、そのまま乗換えず六本木に直通です。六本木から光が丘に帰る場合は、都庁前駅は4番線で、これも乗換え無しでいけるではありませんか。
ならば同じ光が丘から今度は飯田橋に通っている場合。辿ってみると1番線着ですが、おっ! 同じホームの向かいの2番線から飯田橋方面の電車が出るじゃありませんか。帰りも同じ。3番線に着いて同じホームの向かい側4番線に乗換えればいい。同じホームの乗換なら楽なものです。
と言うわけで、大江戸線は郊外から都心に通う通勤客に易しい形態をしていたのでした。


考えてみれば電車が一番混み合うのは通勤ラッシュの時です。その最も混み合う時間に最も効率よく使えるように設計するのが、確かに一番合理的です。
やっぱり都市計画を立てる人は良く考えてるんだなぁと実感しました。
以上、報告終り。





【追記】
↓何だか似たような趣味。
知られざる「駅ダンジョン」の世界
(2008.07.27)