江ノ島から三浦半島へ
梅雨明け二日目。
いよいよ夏がやって来ると身体が疼く。
夏といえば海。海といえば湘南。
あまりにベタな展開で気が引けるが、でも、やっぱりそうだよな…
というわけで、最高気温が軽く三十度を超える真夏日に、神奈川県の海岸を自転車で走り回った。
以下、報告。
- 東京から江ノ島に行く二つの方法
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昔、岡崎京子のマンガを読んでいたら、登場人物が小田急に乗って江ノ島へ行ったのでちょっとビックリしたことがある。個人的な思い込みに過ぎないのだが、小田急とは箱根に行くときに乗るものであって、江ノ島とは東海道線で行くものだと信じていたのだ。おお、小田急でも江ノ島に行けるのか!と大変新鮮だった。
例えば新宿を起点にして考えた場合、小田急線も湘南新宿ラインも大して距離が変わらない。というか、湘南新宿ラインという便利なものがまだ無くて東京駅まで出てから東海道線に乗っていた昔だったら小田急の方が更に有利だったかもしれない。
論より証拠の地図がこれ。
より大きな地図で 都心から江ノ島へ行く二つの方法(電車) を表示
赤い線が小田急で、紫の線が湘南新宿ライン。どう考えても小田急線の方が遠回りになるのではないかという先入観に反して、どちらのルートもほぼ59キロメートルだった。
- ポリリズム
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というわけで、梅雨明け二日目、小田急線に乗って江ノ島に出かけていった。
「これで自分も岡崎京子と同じだぜ」とご満悦なのはバカだから。
相模大野で本線を逸れ江ノ島線に入ると相模平野の向こうに丹沢の山塊が姿を現す。東京から見る丹沢とは違って、ずっと大きく、丹沢と自分の間には何も遮るものがない。なだらかに起伏する大地を挟んで山々と直接対峙しているような気分だ。その自分と山々の間に広がる大地の上に真っ白な雲の塊が浮かんでいる。強烈な陽の光を受けて眩しく輝いていた。
ああ、夏だなぁ、夏が来たんだなぁと、嬉しくなる。
ちょうどその時、ヘッドフォンで聴いていたMP3の曲がPerfumeの『ポリリズム』に変わった。
Perfumeのファンだというわけではないが、この『ポリリズム』だけは近年まれに見る傑作だと思っている。バッハ好きにはこの万華鏡を思わせる「音の幾何学」が堪らない。
音と窓の外の光景が一緒になって至福感が身を包んだ。←ドーパミン大量分泌開始…
- 本日のサイクリングコーズ
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一時間ちょっとで片瀬江ノ島駅に到着。岡崎京子だったらそのまま砂浜に座って感傷にふけるところだが、岡崎ごっこはここでお終い。駅前でブロンプトン(折りたたみ自転車)を組み立て、国道134号線を一路鎌倉へ向かった。
本日のコースは次の通り。
より大きな地図で 20090715江ノ島→三浦半島周遊 を表示
- 江ノ島から鎌倉へ
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かつて日本を支配する軍事政権の拠点となっていた鎌倉の防備は堅い。海以外は三方をすべて山で囲まれているので、陸路で近づこうとすると、急峻な坂道を登ったり、海際の隘路を延々と辿り続けたりするはめになる。
江ノ島から鎌倉に向かう場合も例外ではない。こちらは海際の隘路コースだ。江ノ電と並行して右手に七里ヶ浜を望むという開放感にあふれた湘南を代表する道だが、自転車で走ると接触しそうになるほどすぐ傍らを自動車がつぎつぎと通りすぎてゆくことになる。そんな状況が延々と続くのだからこれは苦行以外のなにものでもない。あまり愉快な経験でもないので詳細省略。
尚、写真は昔撮ったヤツの再利用。
- 鎌倉から逗子へと抜ける二つの方法
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稲村ヶ崎の切通を抜けて鎌倉の市街地に入ると道幅も広がってようやく一息付いたのもつかの間、すぐに鎌倉と逗子を隔てる急峻な尾根が思いっきり海に向かって突きだして行く手に立ちはだかる。
選択肢は二つ。トンネルを抜けるか、トンネル脇の小道に入って海際の道を抜けるか?
今回は試しにトンネルを抜けてみたのだけれど、これはよくなかった。明るいところを走ってきたせいでトンネルの中に入ったとたん目の前が真っ暗になってしまい足下が見えない。自転車のランプもまったく役に立たない。その上このトンネルは途中で曲がっているので出口が見えず不安感をかきたてられる。
ここはやっぱり前回走ったときと同じトンネル脇の小道を推奨したい。
より大きな地図で 材木座海岸から逗子マリーナへ抜ける二つの方法 を表示
青がトンネルを抜ける道で、赤がトンネル脇の海辺の小道。
トンネル入口の右手にこの小道の入口がある。あまりにも狭い道なので途中で行き止まりになっているのではないかと疑いたくなるが、ちゃんと続いているので安心して進んで欲しい。
マークで示したように途中2箇所階段があるが、短い階段なので自転車を抱えて降りてしまおう。
- マリン・クラブ「セレナ」@長者ヶ崎
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逗子から葉山にかけての道程は省略。葉山の海際の小道もひなびていて風情があるのだけれど、この道が本当に素晴らしくなるのは葉山を抜けて横須賀に入ってから。
長者ヶ崎を越えて曲がるなりいきなり目に飛び込んでくる風景がこれ。
レストランとダイビング・スクールが入居しているらしい。
晴れた日にこんなところでボンヤリと海を眺めながらビールでも飲んでいたいと思うのだが、帰りのことを考えると実行に移せない。最近は自転車でも飲酒運転は捕まるし…
- 園芸用品店@秋谷海岸
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国道134号線は長者ヶ崎を過ぎるとしばらくの間海際を走り続ける。山がいきなり海に落ち込む地形の中を無理矢理通した道なので道路と海の間には殆ど隙間が無く、道路の下に波が直接打ち寄せているようなところが殆どだ。けれども、時々現れる猫の額ほどの土地には必ず建物が建っていたりする。吹き付ける風と波しぶきで居住環境としてはとても耐えられたものではないだろうと思うが、景色だけは抜群なので人を惹きつける店舗としてなら大いに意味がある。
ここもそんな店の一つ。なぜ海際に園芸用品店なのか、脈絡のないロケーションだが、それでも向こう側にきらめいている海の魅力に引き寄せられて入ってみたくなることだけは確か。
- 漆山湾岩場
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奇岩で有名な荒崎海岸の手前。こちらは基本的に漁港だが地質的には同じで荒崎海岸とそっくりな岩が覗いている。
空気が澄んだ日には水平線の上に富士山のシルエットが浮かび上がって大層景色がいい場所でもある。もっともこの辺り一帯はどこでもそうなのだけれど…
- 漆山湾熊野神社
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漆山湾の岩場を前に振り返ると高台に神社がある。
というかここら辺は西側に海を望む海岸の丘の中腹に幾つもの神社がズラリと並んでいる。ひょっとしたら海の向こうに見える富士山と何か関係があるんだろうか?
- 漆山湾熊野神社狛犬
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試しに神社の石段を登ってみた。
境内は海を望むテラスのようだ。
いわゆる「神道」というよりもっと素朴で原始的な海洋関連の信仰の痕跡のようなものを何となく感じる。
狛犬の接写。これは神社ほどにも古くも何ともない平凡な代物に思える。きっと最近になって置かれたものなんじゃないかな。つまらないものを撮ってしまった。
- 荒崎海岸
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隣の荒崎海岸の奇岩。
そういえば一昨年のクリスマスに同じ場所にやってきて同じような写真を撮ったっけな。
今回は前回より高いカメラを使ってるけど、果たして値段の分だけ好い写真になっているだろうか?
イヤ、確かにホワイト・バランス(発色の調整)は優秀だけど、かえってその分つまらない写真になっているような気がする。
ダメだ。今日の写真には心がこもっていない。
- 三浦半島中央部
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普通だとこのまま隣の「黒崎の鼻」に行くのだけれど、いつも同じようなコースではつまらない。今日は少しヘソを曲げで海から離れて内陸に向かうことにした。三浦半島を西から東へ横断してやろうと思ったのだ。
少し坂を登ると半島の中央部は割と平坦な台地になっていてその上に畑が広がっている。
背後に見えるのが武山を中心とする山塊。
ちなみに三浦半島はこの武山と大楠山が東西に連なる山塊によって南北に二分されていて、この山塊の南側には比較的なだらかな台地が広がっている。
こうした地形の細部が体感できるのも自転車で走り回る利点の一つだ。自動車や電車で移動したらこの感覚は味わえない。
- 宇宙国際監視課
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三浦半島の東西を分ける尾根の上までたどり着いたらいきなりパラボラアンテナが立っていて更に「宇宙国際監視課」という看板まで掛かっていたのでビビッた。宇宙人の侵略でも監視してるのかよ?
あとで調べたところによれば総務省関東総合通信局傘下の三浦電波監視センターという施設で、人工衛星からの電波をモニターしているそうだ。
以下、続くが、少々飽きてきたので、まず写真のみアップロード。
コメントは後ほど追加予定。
というわけで、今はもう翌日。
続き行く。
- 畑の中の一本の木
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三浦電波監視センターの裏手の畑の中にぽつんと立っていた木。
違う、こういう感じではない。
何か撮り方を間違っているような気がする。
- 浦賀叶神社遠景
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まず浦賀の地形を再確認しておきたい。
大きな地図で見る
久里浜の北隣に位置する奥行き700〜800メートルほどの細長い入江。入江の奥は住友重工の造船所になっていて*1京急本線終点である浦賀駅がある。
150年くらい昔のある日突然、この沖合に黒船が現れて江戸時代の終わりが始まった。
実際に訪れてみた浦賀はひなびた漁村といった雰囲気で、こんな場所でも「歴史」の舞台になることもあるのかと思えば、何か不思議な感じすらする。
入江の幅は200メートルくらい。この入江を挟んで西浦賀町と東浦賀町が対峙。入江の入口までやって来ると対岸の神社がすぐ近くに見えている。始めて来たときはちょうど秋祭りの最中で神社の前に神輿が出ていたのを思い出す。気がつくと同じ場所で同じ写真ばかり撮っている。我ながら芸がないなぁ…
と、ここまで書いたところで、ちょっと風呂。
風呂から上がって気が向いたら続きを再開するかも。
…結局風呂から上がったら寝てしまった。
というわけで、今日はまた翌日。
- 浦賀叶神社近景
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一旦入江の一番奥まで進んでから引き返してきてようやく先ほど対岸に見えた神社の前にたどり着く。ものすごい遠回り。
ものの本によれば入江の入口には東岸と西岸を結ぶ渡し船があるそうだが、分からなかった。自転車も乗せられるのなら是非乗ってみたいと思うのだけれども…
- 観音崎砲台跡
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浦賀まで来ると観音崎はすぐ隣り。
せっかくなので観音崎灯台まで行くことにして岬の上まで続く横道に入った。急な坂道を登ると鬱蒼と木が茂っていて昼なお暗きジャングルの如き様相。
行く手に現れた赤煉瓦の廃墟は明治時代の砲台の跡。
三浦半島というのは昔も今もやたらと軍事施設がある場所だ。
- 観音崎灯台
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灯台の入口にたどり着いてみれば閉館時間を過ぎていた… orz
戸締まりをして出てきたオジサンが自転車を抱えてボウッと突っ立っている自分の姿を見て「それでここまで登ってきたんですか?」と驚く。
「イヤ、とんでもない。押してきました」と答えたらアハハと笑われた。
しかたがないので、一応、記念撮影のみ。
で、ふと気がついたんだけど、この前来たときもまるっきり同じ構図の写真撮っていたぞ…orz
- 走水神社の夏祭り
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走水は観音崎の北に位置する古くからの港でヤマトタケルも東征の際にここから東京湾を横切って房総半島へ渡ったといわれている。
見渡せば確かに房総半島は目と鼻の先。房総半島側から富津岬がこちらに向かって手をさしのべるように張り出している。
しかしヤマトタケルが海に乗り出したとたん一天にわかに掻き曇り暴風雨が襲ってきたので、同行の妾を生け贄として海に投げ込んで事なきを得たとか…。伝承では本人が自ら飛び込んだことになってるけど、さぁて、どうだか?
走水神社はそのオトタチバナヒメを祭った神社なのだけど、それってやっぱり怨霊封じ?
たどり着いてみたらこちらはちょうど夏祭りの真っ最中。
でも、境内にもあまりひとけが無くて寂しい感じ。
写真の中央やや左手に注目。巫女とも違う古めかしい衣装を着たきれいな女性が写っているでしょう? 祭のための仮装? いえいえ、もちろんオトタチバナヒメの怨霊に決まってるじゃないですか。*2
- 走水より東京湾への落日を望む
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走水神社を過ぎると道は突然急な長い上り坂になって、ヒイヒイいいながら登り切ったら目の前が開けた。
東京湾に沈む夕陽というのは千葉に行けばいくらでも見られるはずだけれど、神奈川県の三浦半島にもそれっぽいものが見られるところがあるということで…
そろそろ三浦半島も飽きてきたし(同じような写真しか撮れないし)、この夏は房総半島まで足を伸ばしてみようかな…
- 馬堀公園の夕焼け
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更に北へと進み、ここは横須賀の中心地に近い海際の公園。堤防の上を何キロも散歩道が続いている。海の方に目をやると東京湾が一望の下に見渡せて凄い眺め。棕櫚だか椰子だかの並木が南国情緒をかきたてる。横須賀の中ではわりと好きな場所の一つ。
この後、二キロ弱走って京急堀之内駅にたどり着き、自転車をたたんで、電車で帰ってきた。何度もいうが折りたたみ自転車は便利だ。あとのことなど気にせず体力と時間の許す限り走りたいだけ走って、疲れたら電車に乗って帰ってくればいいのだ。おかげで行動範囲がどれだけ広がったことか…
本日の総走行距離約六十キロ。短めだが割と充実した旅であったように思う。満足。
*1:Wikipediaで確認してみたら2003年3月に閉鎖され、跡地は野外ミュージアムになるとか。
*2:ウソ。何も写っていないから安心して下さい。