岩明均「骨の音」

新装版 骨の音 (KCデラックス)

新装版 骨の音 (KCデラックス)

岩明均と言えば「寄生獣」ですが、私は正直言って好きになれなかった。確かに否応なしに凄い作品かもしれないけれど、あの絵… 暗くて、貧乏くさくて、ダサくて、下手くそで、何だか臭ってきそうなあの絵… 湧き起こってくる生理的拒絶反応をどうしても抑えることが出来なかった…


…が、しかし、不思議ですね。そんなことって起こるんですね。
「骨の音」一作を読んだおかげで、その生理的拒絶反応がクルリと裏返ってしまったのです。あたかも世界が目の前で白黒反転してゆくような体験でした。どうにもイヤでたまらなかったあの絵まで、グロテスクであるが故に、却って魅力的なものであるように思えてきてしまった…
だって「骨の音」って凄いんです。電車に飛び込んだ男の骨が車輪の下で砕けてゆく、その「骨の音」なんです。その「音」が耳にこびりついて消えなくなってしまった女性の「目」がこれまた凄い。カッと見開かれているが何も見ていない「目」に宿る「狂気」の描写。凄い絵じゃないですか、これ… ハンマーで脳天かち割られたような衝撃ですね…
岩明均は「本物」だ、と思いました。絵の「センス」とか「技術」以前の問題です。彼の作品には「魔」が潜んでいる。この「魔」に取り憑かれている限りはこれからも凄い作品を描いてくんじゃないかなぁ、この人。現在連載中の「ヒストリエ」も何だか凄い作品だし… あんなの、絶対、普通の人じゃ描けませんよ…


自分の頭の中では、「楳図かずお諸星大二郎岩明均」という系列が出来てしまったんだけど、やっぱり変かなぁ、こんな「系列」…

<<追記>>
id:dice_que さんのコメントにレスを付けているうちに思いついたんだけど、この系列を、「生の芸術(アール・ブリュ)」*1にちなんで、「ナマ(生)のマンガ」系列と(個人的に)呼ぶことにしよう…(2005.11.30追記)

*1:アウトサイダー・アート」という呼び名の方が一般的みたいだけど、自分はこの呼び方は好きではない。ちょっと違うと思う。だいたい何で「アウトサイダー」なんだよ…