森見登美彦「きつねのはなし」

きつねのはなし

きつねのはなし

面白かった。
太陽の塔太陽の塔 (新潮文庫)でファンタジーノベル大賞を受賞した森見登美彦id:Tomio)の三冊目の著作にして初の短編集。
太陽の塔」や「四畳半神話大系四畳半神話大系に充満していたあのどぎついアクが抜けて「普通」の小説になった。でも「普通」であるということは必ずしも「凡庸」であるということを意味しない。相変わらずの強い喚起力。読者は森見登美彦の京都」という謎めいて魅力的な都市の中にスッポリと呑み込まれ延々と彷徨うことになる。地図を広げて読むことをお薦めする。
収録された四つの短編はどれも面白いけれど敢えてベストを選べば第二話「果実の中の龍」かな。いいですよ、これは。
商業的には「ホラー小説」ということになるのだろうけれど、それだけでは片付けられない深い味わいがある。個人的には諸星大二郎の諸作品を思い出した。
広くお薦めしたい。これまでの作品がクセが強すぎて受け付けなかった人でもこれなら面白いはず。


本人のブログによればあの「夜は短し歩けよ乙女」も十一月末に出版されるという。生きててよかった…