栗本慎一郎「パンツを脱いだサル」はユダヤ陰謀史観?

パンツを脱いだサル―ヒトは、どうして生きていくのか

パンツを脱いだサル―ヒトは、どうして生きていくのか

かつて一世を風靡した名作「パンツをはいたサル」ISBN:4768468993完結編である。何しろ24年間だ。その間、明治大学追放、自民党除名、脳梗塞等々の数々の苦難に見舞われ続けもはや「死に体」と思われていた著者が一体どんな本を出したのか? 本屋の店先で「新刊」を目にした人が思わず「亡霊」という言葉を思い浮かべてしまったというのも心情としてはよく分かる。
しかし本当に「亡霊」だったのか?
実際に読んでみた結論から言えば「亡霊」にしては元気だった。
重い脳梗塞を患った人がこんな本を書けるのか?!と驚いてしまう。読みやすく、そして面白い。読んでみて損はないよ、と人に勧められるレベルには達している。けれどもあの名作「パンツをはいたサル」の完結編としては正直言って物足りない。あの雄大にして真理の冷徹さすら感じさせた本の完結編にしては何だか「ぬるい」。雄大な構想がありふれた「ユダヤ陰謀史観」にちんまりと収束してしまったような印象をぬぐいきれない。本人もそこら辺は気にしていて「ユダヤ陰謀史観」なんかじゃないんだぞとしきりに強調しているのだが、そして実際著者の意図も「自己増殖する価値」としての「貨幣の運動」がヒトを隷属させてしまうということにあるのだろうが、世の人々の評価というものは大雑把なものだ。あんな書き方をしたら、読み終わったとき、読者の心には、結局、「ユダヤ陰謀史観」という印象しか残らないだろう。
本の売り込み方という点からもこれはまずい。メディアといえどもユダヤ勢力は怖い。かつて「週刊文春」の編集長の首を飛ばしてしまったこともあるくらいである。一読して「ユダヤ陰謀史観」みたいな印象を与える本を話題として取り上げることを避けるだろう。
…大丈夫なんすかねぇ。