今更ながら古橋秀之が凄い!(「ブラックロッド」シリーズ)

ブラッドジャケット (電撃文庫 (0176))

ブラッドジャケット (電撃文庫 (0176))

ブライトライツ・ホーリーランド (電撃文庫)

ブライトライツ・ホーリーランド (電撃文庫)

サムライ・レンズマン (徳間デュアル文庫)

サムライ・レンズマン (徳間デュアル文庫)

ブラックロッドISBN:407306035X古橋秀之の同じシリーズをまとめ読み。
シリーズ第一作(「ブラックロッド」)より第二作(「ブラッドジャケット」)が好くて、その第二作より第三作(「ブライトライツホーリーランド」)が更に好い。これは凄いことではないか…
古橋秀之の魅力は例の黒丸尚版「ニューロマンサー」風の「ルビの魔術」だけではない。「ブラッドジャケット」では残酷で切ない「ボーイ・ミーツ・ガール」に胸を突かれ、「ブライトライツホーリーランド」では次々と飛び出してくる破格のキャラのアンチ・ヒューマンぶりにゾクゾクさせられる。そして最後に待ち受けているクライマックスは「神の顕現」。何かこの人、本当は「深い」んじゃないんだろうか? これって物凄い傑作なんじゃないだろうか? 何でみんなもっと騒がないんだ? そもそも「ブライトライツホーリーランド」が出た当時、どんな評価を受けていたんだろう? あの頃、評判を聞いた覚えはないんだけどなぁ…?と、2000年当時のSFマガジンを引っ張り出して書評欄を読んでみたら、「ライトノベル☆めった斬り」ライトノベル☆めった斬り!で「ライトノベル史上オールタイムベストワン」と絶賛していた三村美衣自身が、その時点では「雰囲気が魅力」とか「話が複雑」とか、まだピンと来ていないような感じ。素晴らしい作品には往々にしてそんなことが起こる。最初に読んだときにはまだピンと来なくても、あとからじわりじわりと効いてくるのだ。三村美衣にもきっとそんなことが起こったのだろうと推測する。
とにかく凄いよ、古橋秀之。イイよ、これ。
サムライレンズマン」もある意味では面白かったんだけど、でも、こんなの書いてていいのかなぁ、この人。才能の無駄遣いじゃないのか? 本当はもっとディープな作品をどんどん書いてもらわなくちゃいけない作家なんじゃないだろうか?


≪追記≫
念のために明記しておくが、「ライトノベル」と言っても上遠野浩平西尾維新辺りを中心とした「ライトノベル」(「ファウストライトノベル」とでも呼んでおくか?)とは全く別な系統の「ライトノベル」に古橋秀之は属している。旧い方というか、SF系というか…。そこのところ、誤解ないように。


≪追記2≫
古橋秀之は暗い。どす黒い。しかし「暗い」ことと「絶望している」ことは別なことだ。古橋秀之にとって世界が暗いことと、世界が美しいことと、世界が生きるに値する場所であることは同値であるように思える。一見病的には見えるものの、そこにははち切れんばかりの生命の感触が充満していて、その意味では「健康」だと言ってもいい。
一方、上遠野浩平西尾維新に代表される「ファウストライトノベル」に表出される「絶望」には「暗さ」がない。世界は隅々まで陰り無く白々と明るく、それでいながら「希望」はどこにも見いだせないのだ。こちらの方がはるかにヤバイ…(20060223)