かすれ声系女性歌手の発見

そんなわけで、インターネットラジオを通して節操なくありとあらゆる種類の音楽の間を、新たなる「ハッ!?」を求めて彷徨い始めたのだけど、そのうち、自分が「ハッ!?」となる曲(実際には「歌」だが)には共通した特徴があることに気づいた。何故かかすれ声の女性が歌っている曲が好きになるのだ。かすれ声といっても色々な種類があるので一概にいえないし、かすれ声だから必ず好きになるとは限らない。でも、自分が好きなった音楽を改めて振り返ってみると、一種のかすれ声という共通した特徴が浮かび上がってくる。音楽のジャンルは決まっていない。アフリカ系もあれば、ボサノバ系もあるし、ジャズ系もある。それぞれのジャンルの昔からのメジャーアーティストもいれば、あまり有名でない人もいる。ただ、かすれ声であるということだけが共通点だ。


例えばベベウ・ジルベルト。知ってる人は誰でも知ってるボサノバの創始者ジョアオ・ジルベルトの、多分それほど有名ではない娘だ。何気なくつけっ放しにしていたインターネットラジオから流れていた彼女の歌声(Tanto Tempo サンプル試聴可能。要 real player)にハッとなり、そのまま「タント・テンポ」というアルバムにすっかりハマッた。言っておくがボサノバ系の音楽が特に好きだったわけでもない。「イパネマの娘」ぐらいは知っているけど、ベベウ・ジルベルトを知るまでは、それがジョアオ・ジルベルトの曲だということすら知らなかったくらいだ。その後もベベウがきっかけでボサノバにハマるということもなかった。ただベベウ・ジルベルトが好きなだけ。

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或いはザップ・ママ。同じく、ある日パソコンのスピーカーから流れてきた「gissie(サンプル試聴可能。要 real player)」に「ハッ!?」とする。ベルギー人のおばちゃんだ。父親はワロン系(フランス系)ベルギー人だが、母親はコンゴ人。ワールドミュージック系女性アカペラグループから出発してヒップホップ系ソロシンガーに向かって行った曰く言い難い存在。彼女が好きだからといってヒップホップ系が好きになるなんてあり得ないよなぁ、自分の場合…。ただザップ・ママが好きなだけ。


アニタ・オデイにもハマッた。ジャズの古い名曲ばかり流しているチャンネルだったと思うが、彼女の歌声だけが、何かそこだけ燦然と輝いて耳に飛び込んできたのだ。「ジス・イズ・アニタ」を入手して繰り返し聞いては、「ううん、『言い出しかねて』は名唱だなぁ…」と感極まってつぶやけば、「あなた、こんなスタンダードの名曲も知らないの?」と妻に馬鹿にされた。もともとジャズは好きじゃない。と言うか、自分の周りのジャズファンというのが、何故か、自分の俗っぽさを認識できない視野の狭い俗物、と言うタイプばっかりだったので、ジャズまで嫌いになってしまったのだ。でも、アニタ・オデイは好きだ。思い切って蓮っ葉な歌い方がカッコいい。80歳になるアニタ・オデイがカリフォルニアのクラブで歌ってる動画をネットで見かけたことがある。腰の曲がった婆さんが、腕を振り回しながら「ハニーサックルローズ」を歌ってる。往年の歌声など見る影もないが、婆さんは歌っている。婆さんはまだ元気に生きてる。そう、アニタ・オデイはそうでなくちゃ。婆さんガンバレ!と、ちょっとだけ幸せな気分になった。