ホリエモンを陥れたのは誰か? (ライブドア強制捜査劇場)

疲れている*1ので今日は簡単にいきたい。
「黒幕」は誰だろうということがずっと気になっていたが、ひょっとしたら、全ては東京地検特捜部大鶴基成部長きわめて特異なキャラクターが引き金となっている可能性があるかもしれないという気がしてきた。とにかく彼の就任時の抱負というのを読んでみて欲しい。

東京地検特捜部大鶴基成部長、彼こそは熱血漢である。就任時の抱負がすごかった。彼の持論を展開した。
「マスコミは、やくざ者より始末に終えない悪辣な存在」
「マスコミは本当に有害無益な存在」
一部分を抜き書きしてあるから、刺激的な文言になるが、それにしても強烈な個性である。真っ正直な人だという印象をうける。マスコミは言われて当然という共通認識もあるから、困るのはマスコミの下りではない。次の発言にはどうにも違和感を感じてしまう。
「額に汗して働く人、リストラされ働けない人、違反すればもうかると分かっていても法律を遵守している企業の人たちが、憤慨するような事案を摘発したい」

詳しい事情については上記のリンク先をじっくり読んでみて欲しい。とにかくこの一連の騒動はまず最初に動き出したのが地検特捜部であったという出発点からして異常だったのだ。*2
他の人たちがどんな感想を抱くか分からないが、私は寒けを覚えた。
大鶴基成部長が主観的には「善意」に基づいて行動しているつもりであることは間違いがないが、客観的に見れば人格的に度し難い「ゆがみ」を抱えた人物なのではないかという懸念が拭いきれない。
おそらくこの人物の頭の中には「権力」によって性急且つ強引に「正義」を実現することだけしかなく、そのためには米国流に言うところの「due process of law」*3など踏みにじってもいいと考えているのではあるまいか?
たとえ公衆の面前で殺人を犯した人間がいたとしても、その場で直ちにみんなで石を投げつけて殺すようなことはせず、一応裁判など開いて然るべき手続を経た後にもったいを付けて吊すのが「文明国の流儀」というものだ。
どこかの地検特捜部の部長は「西欧的近代市民社会」における「法の支配」の意味を理解できない「野蛮な土人」であって、自分の行動が自分自身の権力の基盤となっている「法秩序」そのものを破壊してしまうことに気付いていないのかもしれない。悪いことを悪いと感じることのできる素朴な正義感は確かに大切だろうが、近代国家の「法律のプロフェッショナル」の「正義感」があまりにも「素朴過ぎる」としたら、それは単なる「困ったこと」では済ますことの出来ない深刻な問題をもたらすことになるだろう。


≪追記≫
このエントリー、というか正しくはこのエントリーのきっかけとなった他所様のブログの記事(「いきなり検察当局が出てきた」、日経新聞が明かしたライブドア捜査の内幕)は結局正しかったことが朝日新聞の報道によっても追認された。詳しくは2006年5月30日付のこの記事を参照して欲しい。
ライブドアVS.名コンビ ニッポン人脈記
尚、この記事自体の論旨はあまりにも表面的で単純すぎるような気がする。イヤ、或いはひょっとして、この事実をマスメディアに流すためにはこのような「擬装」が必要だったという可能性も全くないとは言い切れないけど…。スターリン時代の旧ソ連における「二重言語」みたいな感じ。(2006.06.03追記)

*1:昨日のエントリーの乱暴さを見れば分かるように諸般の事情から生じたストレスで神経がピリピリしてすぐキレてしまう

*2:リンク先にも解説されているように「証券取引法の担い手は金融庁であり、証券等監視委員会はその傘下にある。証券犯罪の摘発は、監視委や金融庁がまず動き、検察に告発する手順を踏むのが本来の姿」なのであって、しかも「検察に告発する」前の段階でも「関わる行政行為について一切の法的責任を負っている」金融庁や証券等監視委員会が「執行命令・委任命令、訓令・通達・告示、下命(及び禁止)・許可・免除、特許・認可・代理、確認・公証・通知・受理、指導・勧告・助言等」の「行政権力」を行使して事態の改善に当たることが可能であった。にもかかわらず、今回の事件では、そうした段階をすっ飛ばして、いきなり地検特捜部が捜査に乗り出した点で「異常」。強制捜査が開始された時点で、テレビのニュースに引っ張り出された慶応のビジネススクールの先生も「風説の流布と言うけれどあの程度のことで地検特捜部が動くなんてことは普通はない」と戸惑いを隠せない様子だった。→関連エントリー

*3:「法の適正手続きなどと訳されますが、本来の意味はちょっと違うような気がします。国民の生命・身体・財産などに対する強制力の行使は、法が定める正当な手続きと方法に基づいて行なわれなければならないという、かなりポヂィティブな意味をもっている概念で、アメリカ法のもっとも基本的な理念のひとつです。」from 白川勝彦Web