クライトンはチャンドラーにあらず

緊急の場合は (ハヤカワ文庫NV)

緊急の場合は (ハヤカワ文庫NV)

昨日の続き。
結局、途中で止められず、夜を徹して読んでしまった。
形式としては典型的なハードボイルド。主人公が手がかりを求めて人から人へと聞き込みを始めると、次々と奇妙な人々が目の前に現れ、やがて、事件の裏に広がる複雑怪奇な闇が姿を現し始める… 最後の方になると主人公は必ず後から誰かに殴られて気を失い、それをきっかけに事件はバタバタと解決してゆくが、結局、苦い結末が待ち受けている…


前半ぐらいは良かった。人づてに聞き込みを続ける主人公の目の前に次々と奇妙な人々が現れ、事件の謎が深まっていく部分。
でも、そこから暴かれてゆく裏の事情の複雑怪奇さは期待したほどでもないし、何よりも、最後の後味の悪さがイマイチだった。結局、定石通り、主人公は誰も救えないのだけれど、その救いようの無さがイマイチ。何か、後を引くものがない。

結論として、最後まで読んで分かったことは、マイクル・クライトンレイモンド・チャンドラーではないということかな?

今まで読んだクライトンの作品の中では、一番、保守的な意味での「文学」に近いものだと思うけれど、やっぱり何か足りないよね、この人は。
やがて彼は「人間」描写を投げ捨て「設定」や「ストーリー」の追求に走ってゆくことになるのだけれど、その選択は、自分の資質を正しく生かすという意味では全く正しかったような気がしてくる。