アースダイバーの系譜

東京の散策ガイドの類はそれこそ膨大な数が出版されているのだが、東京の「地形」の「理解」をテーマにしたものは意外と少ないような気がする。
自分が今まで目にしたものの中から特に参考になったものを紹介してみたい。



「江戸」という都市の建設過程を丹念に追いかけて解説した2巻ものの「絵本」。出版されてから既に24年が経っているのに、いまだにアマゾンで手にはいるところはさすが。「古典的名著」の貫禄。「東京」の建設が400年も前の大規模な「自然改造」から始まっていることに驚異を覚える。その「自然改造」が地形をある意味「不自然」なものにしてしまい、それ故に非常に理解しにくいものにしているのだけれど…というか、逆に言うと、その「自然改造」の「歴史」を知らなくては東京の地形は正しく理解できないことになる。
ただこの本は「歴史」の本であって、実際に土地を歩き回って「現在」の地形を理解するという目的からすると、「使いにくさ」を感じないわけにはいかない。

図解 新東京探訪コース (岩波ジュニア新書)

図解 新東京探訪コース (岩波ジュニア新書)

歩いて見よう東京 (岩波ジュニア新書 (233))

歩いて見よう東京 (岩波ジュニア新書 (233))

新・歩いて見よう東京 (岩波ジュニア新書)

新・歩いて見よう東京 (岩波ジュニア新書)

中高生向けの東京散策ガイドだが、「地理学者」が書いただけあって、実際に自分の足で歩き回って東京の「地形」を発見することを目的に書かれている。その意味で自分の目的にピッタリで、この本の第一版である「図解 新東京探訪コース」が出た当時は、この前「アースダイバー」が出たときと同じように、ついに自分のための本が出たと小躍りしたものだ。山手線内全域をカバーする「地形図」でまさに目から鱗が落ちる思いを味わった。が、しかし、使い込んでゆくうちに、どうしても「細部」が不足していることが気になってくる。特に赤坂・青山・麻布付近の地形の複雑さはこの本の程度の「略図」では把握しきれない。国土地理院の地形図があるではないかといわれそうだが、建物と道路が稠密に絡み合った都心部の地図の上で細かな等高線を丹念に追いかけて「地形」を読み取ることは、自分のような素人にはほとんど不可能だった。…この本が出た後、長いこと、「暗黒時代」が続いた。
尚、この本は1988年に「図解 新東京探訪コース」として出版されたあと、1994年に「歩いてみよう東京」へ、2004年には「新・歩いてみよう東京」へと改題されている。その度に内容も改訂されているが、実質的に同じ本の第一版、第二版、第三版と考えて問題ないと思う。その意味で、この本も既に18年のキャリアを持つ「歴史的名著」の仲間かもしれない。

数値地図 5mメッシュ(標高)東京区部
CD-ROM版
国土地理院
2003年12月1日発行
地図センターで購入可

「アースダイバー」の巻末資料を見て初めてその存在を知った。この地図、というか「デジタル化された地形データー」で何ができるかは、2005年7月5日のエントリーを参照して欲しい。「カシミール3D」というフリーウェアを使って通常の地図データーと合成することによって、パソコンのモニターの中に詳細な立体地図が表示できるのだ。これで積年の疑問点が一挙に解決されてしまった。
結局のところ、「アースダイバー」や、後年の「『東京』の凸凹地図」のような本が可能になったのも、このデーターの公開によるところが大きいのではないかと自分は思う。国土地理院は素晴らしい…

アースダイバー

アースダイバー

内容については何度も取り上げているのでこちらこちらのエントリーを参照のこと。色々問題も多いが、それでもこの分野(どんな分野?)における画期的な著作だと思っている。結局のところ怪しげなホラ話に過ぎないとは思うのだけど、「歩き回ること」に対する「態度」には共感するところが大きい。我々は「目に見えないもの」を見、「世界」における自分の立ち位置を発見・確認するために歩き回るのだ。「散歩」をするとき、我々は「空間」の中だけではなく「時間」の中をも移動する。「散歩」は「肉体」の行為であると同時に優れて「精神」の活動でもある。というか、本来、「精神」の活動は「肉体」の活動と統合されていなくてはならないのだけれども…

地べたで再発見! 「東京」の凸凹地図

地べたで再発見! 「東京」の凸凹地図

既に書いたように「全体図」が提示されていないことがこの本の大きな欠陥である。が、しかし、ここに「陰影図」の形で集められた地形図は、その見易さと、ポイントの選び方と、添えられた解説の的確さにおいて、現時点では最善のものではないかと思う。「数値地図 5mメッシュ(標高)東京区部」と「カシミール3D」を用いれば容易にこのような「全体図」も作成できるのだが、やはり見易さという点で、この本に敵うものではない。この本と同じ水準の陰影図を用いて、東京の都市部全体をカバーする地図帳が刊行されることを切望する。

《追記》新全体図
その後、標高によって色分けする方法によって、5mメッシュ・データとカシミールから、山手線内全域をカバーする地形図を新たに作成しました。
http://d.hatena.ne.jp/tach/20060514/1147601489
今のところ自分的には都心の地形の「謎」はこれで殆ど解決してしまったような気がして、大層気に入っています。もしよろしかったら、ご参考までにどうぞ。(2006.09.29)

《追記2》推薦本追加

東京の自然史 (紀伊国屋新書)

東京の自然史 (紀伊国屋新書)

古い本だが、紛れもない「名著」。
すべての「アースダイバー系書籍愛好家のための基本文献」。
読みやすい本から読み始めてある程度分かってきたところでこの本を読むと、断片的だった知識が然るべきところにピタリピタリと嵌りだし、それらが結びついて壮大なビジョンが形成されて行くので驚きを禁じ得ないはず。
東京の「地形」がどのような経緯を経て今あるような形にたどり着いたのか、その複雑な経緯を、著者は、まるで名探偵が驚くべき事件の真相を次々と暴いて行くかのような手つきで、スラスラと解き明かして行く。
詳しくは別エントリー『世界の見方が変わる本、或いは「関東平野は盆地である!」』を参照のこと。

(2008.12.02)