ル・グウィン「ゲド戦記」旧三部作総括

現行の全六巻ではなく旧三部作に該当する三冊だけに限定してまとめて振り返ってみると、

第一巻の「影との戦い影との戦い―ゲド戦記 1は文句なし。「魔法」を「テクノロジー(科学技術)」と同じものとして描いてみせたその着想の妙に感服。それに荒々しくて傲慢なゲドのキャラクターが何と言っても鮮烈で魅力的。押しも押されぬ奇跡的名作。

第二巻の「こわれた腕環こわれた腕環―ゲド戦記 2は技術的には素晴らしい水準にあるものの、イデオロギー的には受け入れがたく、個人的にはせいぜいのところが「秀作」止まり。社会の「贄」として捧げられた「女性」の「人間性回復」の物語とも読めると同時に「少女」の「性の目覚め」とも読めるメタファーの冴えは素晴らしいとは思う。地下の迷宮は「死」の象徴であるとともに「子宮」そのものだし、その「子宮」の中に「異邦人」たる「男」が迷い込んでくるのだ。それを覗き穴からじっと「少女」が見守っているのだからその性的象徴性は明々白々。ただ、「原始の闇」は我々一人一人の心の中に潜んでいるものであってそんなに簡単に滅ぼせるものではない。これだけ見事にメタファーを駆使しながら、結末があまりに常識的というか凡庸なのでガッカリ。ル・グウィンは「理」が勝つと途端にお約束的なきれい事ばかり並べ立てる秀才の模範生になってしまう。つまんないヤツ。「頭」で考えない方がいいのに…

第三巻の「さいはての島へさいはての島へ―ゲド戦記 3は良いとこなしの愚作。第一巻ではゲドのキャラが立っていたし、第二巻では実質的主人公である巫女のテナーの心情がそれなりの説得力を持って描き出されていた。けれども第三巻では誰のキャラも立っていない。本来主人公であるべきアレン王子に人間的魅力がゼロだし、ゲドはペラペラ説教ばかりしている小うるさい…というか今風に言えば「ウゼー」オヤジ。その上ストーリーは単調で退屈。しかも読み終わっても、何が言いたかったのかさっぱり分からない。作者自身が物語として展開すべきイデオロギー的内容を持っていないのではないかと思う。

というわけで、「ゲド戦記」は第一巻がお薦め。
でもお薦めできるのは第一巻だけで、ギリギリ譲っても第二巻まで。第三巻まで進んでしまったあなたには苦い失望が待ち受けているでしょう。

ついでだけど、こうして考えてみると、ジブリがアニメ化の対象に第三巻を選んだのは賢い選択だったのかも、と思えてくる。だって、どんなに劣悪なアニメ化でも原作よりも悪くなるっていうことはあり得ないと思うよ。それほど第三巻はひどい。