J・G・バラード死去

大森望mixiで知った。
柳下毅一郎によれば、日曜日の朝、長く患っていた前立腺癌のために78歳で亡くなったという。

20世紀最大の作家を失ってしまった悲しみはどうしようもない。

本当にそうだ。
個人的にはグレン・グールドが死んだとき以来の喪失感。

Ballard built up a passionate readership

彼には熱狂的が読者がついていたというが、自分もその一人だ。
というか、彼の作品に熱狂する人の数が限られているというのが不思議に思えてしかたがないのだけれど。
おなじBBCの記事に『クラッシュ』クラッシュ (創元SF文庫)のことが「Ballard's infamous book」と書かれているのを見ると目が点になってしまう。
そうなのか? 本当にそうなのか?
「既にそこに在るのだけれどまだ名付けられてもいないもの、多くの人が目にしながらもそれが見えているのだということをちゃんと意識できないでいるもの」を描くことこそが「芸術家」の役割だと自分は思うのだけれど、その意味で、彼は本当の「芸術家」だった。
我々は、今日、彼の予言した世界の中に生きているとBBCの記事は結ばれている。けれども、正確にいえば彼は「予言」したわけではない。既にそこに在ったものを描いただけなのだ。我々が実際どんな社会に生きているのか、J・G・バラードだけにはちゃんと見えていたのだといえるだろう。
英語には「水を発見したのは誰か分からぬが少なくとも魚ではない」という言い回しがあるらしい*1けれど、少なくともバラードだけは「水を発見することが出来る魚」であったように思える。

*1:確かジュディス・メリルの年間SF傑作選に引用されていた言葉だったと思うが、「言い回し」と呼べるほど一般に定着した言葉ではないのかもしれない。