世界の見方が変わる本、或いは「関東平野は盆地である!」

東京の自然史 (紀伊国屋新書)

東京の自然史 (紀伊国屋新書)

最近、紀伊國屋の新宿南店をブラブラしているときに何気なく手にとってパラパラめくり
「うをぉっ、これは…  キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!」
と歳も忘れて叫んで慌ててレジに持っていった本。
古い本だが大変な名著である。
アースダイバー系の書物を愛するすべての人に熱烈に推奨したい。
自分の場合読んだタイミングが偶々良かったからなのかもしれないが、それまで読んできた様々な本実際の散歩を通して蓄積されてきた断片的な知識が、この本を読み進めるうちに、収まるべきところにピタリピタリと嵌り始め、それらがつながって頭の中に一つのビジョンが形作られて行く。この快感は何物にも代え難い。
東京の「地形」がどのような経緯を経て今あるような形にたどり着いたのか、その複雑な経緯を、著者は、まるで名探偵が事件の驚くべき真相を次々と暴き立てて行くかのような手つきで、スラスラと解き明かして行く。
イヤ、並みの(?)いわゆる名作ミステリーなんかよりもはるかに面白いんだけれども、これ。
使用前使用後では世界の見方がすっかり変わってしまう本というものが(数は少ないものの)この世の中には確かに存在するけど、これも(少なくとも自分にとっては)そういう稀な書物の一冊。
もはや武蔵野台地は青梅を軸に広がる「いびつな扇状地」にしか見えない。
何よりもビックリしたのは関東平野は「盆地」であるという指摘。
しかもその「盆地化」は現在も進行中だという(関東造盆地運動)。
三浦半島や房総半島が着々と隆起して行く一方で、平野部は幸手・久喜・栗橋辺りを中心に年に1ミリずつ沈降しているんですか、貝塚先生(←著者)…
幸手・久喜・栗橋辺りなら江戸川サイクリングロードを走るために行ったことがある(下図参照)けど、あそこが関東平野の中心点だったとは…

「あの辺り、そんなに凹んでいたかな?」と、カシミール3D標高データーを読み込んで見直してみたら、見つけてしまった、こんな怪しい地形…
関東造盆地運動中心点?
上の図は標高の低い部分を緑、高い部分を赤、その中間を黄色に、1メートル単位で塗り分けたもの。画面の中心部分に注目。東西方向に約2.5キロ、南北方向に約1キロほどの妙な窪地が見えている。
場所は幸手市の南端、幸手市杉戸町の境界線上。
幸手・久喜・栗橋辺り」という本の記述と微妙にずれているけれど誤差の範囲?
グーグル・マップ上で表示するとこのマークの付いた辺りになる。

大きな地図で見る
調べてみるとこの辺りは大島新田といって江戸時代の干拓地で、もともとは安戸沼という広大な沼地だったとのこと。(ソース:杉戸町ホームページ
江戸時代の干拓事業の結果人工的に造成された地形だという可能性もないわけではないけど、干拓なんだから凹んだ部分に土を盛って平らに均して行くはずだろう、普通?
だとしたらそれ以前はもっとくっきりした窪地だったかもしれない。


素人が考えることだから、ひょっとしたら「関東造盆地運動」とは何の関わりもない地形だったというオチもあり得るけど、でも、やっぱり、素人目には限りなく怪しい地形だよなぁ、これ。
広大な関東平野がこの窪地に吸い込まれるように今現在もゆっくりと沈降しているのだと考えると、何だか眩暈がするような感覚を覚える。
並みのSFなんかよりもはるかにセンス・オブ・ワンダー(死語)を感じてしまうよなぁ…


尚、アマゾンに掲載されているのは1976年の「第2版」だが、自分が読んだのは1988年に出た「増補第2版」。こちらは出版元である紀伊國屋書店のサイトで購入可能。